黒い十人の感想

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たぶんっていうか、かなり希望を信じたい/天龍院亜希子の日記

最近毎日がヤバい。何がどうやばいってゲロを吐きそうなくらい忙しい。
やってもやっても仕事が終わらなくて、休みは月に1回あるかないか。
ただ働いた分だけ給料が増えるから努力が可視化されてるみたいで、給料日のたび脳からジャバジャバ快楽物質が出て労働に歯止めが利かなくなる。
ヤバいとは分かってるけど止められない。そんなわけでブログも全然更新できていなかった。
でも映画やドラマを見る時間なんかは案外確保できていて、去年は気が狂ったように毎日映画を見ていた。
一度ハマると歯止めが利かなくなるのは子供の頃から同じで、未だにハマった料理や菓子なんかを延々と食べ続けて結果嫌いになったりする。アホだ。

そんな日々を送っているが、今日小説を買った。「天龍院亜希子の日記」。
最初タイトルを見た時「なんか聞いたことある」と思って考えたら何故か「嫌われ松子の一生」にたどりついた。
まあ、テイストとしては似たようなもんだろう。
ちなみに本当に元になったのは「鬼龍院花子の生涯」らしい。あったあった。

小説を読むのはかなり久しぶりだとか思ったけれど、実はそんなことなかった。
映画の原作になったものをちょこちょこ読んでいた。
でも小説原作(って言い方もおかしいが)、しかも日本の作家が書いたものを読むのは久しぶりだ。
大前提としてすっげー面白かったんだけど、不思議な小説だった。
この小説を読んだことを誰かと共有したい気もするし、したくない気もする。
でもパスワードの再設定までしてこのブログにログインしたってことは、画面越しの一方通行でもいいから誰かとなんとなく共感し合いたかったのかもしれない。
そしてたぶん、この小説はそういう話だ。

いや、どうなんだろう。自信満々に言ったけれど正直微妙だ。
まあでもある程度はこっちで勝手に決めていいだろう。1400円払ったんだし。

登場人物は揃いも揃って現実にいそうで、読んでいて時折嫌な気持ちになる。
普段フィクションの作品の登場人物にガチでムカつくことってそんなにないのだけれど、これを読んでいると自分でも驚くくらいマジにイライラしたりする。
それは主人公のどうしようもなさだったり、同僚の態度の悪さだったり、先輩のそこはかとない上から目線だったり、上司の信用のならなさだったり、おからのクッキーとか配る他部署のお局の意味不明さだったり……まあとにかく色々。
実際ドンピシャ同じことを体験してなくても「なんか似たようなことあったな」と過去の記憶が頭の底から這い出てくる。
しかもエピソードの明確なラインが思い出せなくても、その時抱いた微妙な感情だけは結構鮮明に蘇って来たりする。
嫌と言うより、何故か気まずい。部屋でひとり静かに本を読んでるだけなのに。

でも読み進めていくとそんな人たちにも愛着が湧く。徐々に多面性が見えてくるからだ。
「お、意外といいやつ」と思わされて、けど次のページで「やっぱこいつクソ」と思わされる。
子供用のジェットコースターくらいの速度で感情をちょうどよく揺さぶられながら、そういう気持ちがミルフィーユっぽく積み重なるとなんとなく相手に親しみを覚える。
下手したら「いやこいつこんなこと言ってますけど、これで案外いいところあるんすよ」とまで言いたくなる。
でもそんな風に手心を加えたくなるのは、自分のどこかに彼や彼女と同じ部分があるからってことに気付いてる部分も大きいと思う。
要は下心だ。人はスケベだから、誰かに優しくして保険をかけたくなる。
それは掛け捨てする気のない、無償とはほど遠い情だけれど、それも案外悪くないと思う。

呆れた希望を持つことはたぶん人生に救いをもたらす。
こんな世の中だけれど人は結構、っていうかかなり信じたがりだ。
奇跡も希望もあると思いたい。思うことで救われるからだ。

これは恥ずかしいから誰にも言ってないのだけれど、時々ガチで神に祈る。
世界が少しでもよくなるように。ひとりでも多くの人が幸せな人生を送れますようにと。
本気でこう思ってる。ヤバいと思う。マジでヤバいことは分かっているからさっき書いたとおり誰にも言っていない。

その一方で普通に身近な他人の不幸を望んだりもする。
仕事で現場を荒らすだけ荒らして勝手にキレる無能of無能みたいなやつのこととか。

言い訳みたいに聞こえるかも知れないけれど、生きて行くことは矛盾の連続だ。
そして現実にはほとんど奇跡が起きないことを知っている。
でもやっぱ、希望を信じたい。呆れた希望を持ちたい。
人生は楽しいけれど、生きて行くことはどこかしら辛いから。